経済分野の勉強を始める前に

 政治・経済のうち、「政治」と言えば、国会議事堂、選挙、内閣総理大臣など、なんとなくイメージするものが出てくるような気がしますが、「経済」と聞いても、イメージするものが出てこない人も多いのではないでしょうか。

 私は、大学の経済学科を卒業しましたが、恥ずかしながら、4年間勉強したのに経済学というものが何なのか結局はよくわかりませんでした。さらに、大学を卒業して、政治経済の先生になっったのに、しばらくは、経済学が何なのかうまく説明することができませんでした。しかし、経済学が何なのか知らないくせに、経済学の勉強は大好きだったので、教員をしながら経済学の勉強を続けた結果、教員3年目になってやっと、経済学とは何なのか、生徒に説明できるようになりました。

 なので、みなさんに教えましょう。経済とはずばり「お金の流れ」のことです。この世界には大量のお金が流れています。みなさんの財布の中にはずっと同じ千円札が入っている…わけないですよね。お金というものは一つの場所にとどまることなく、色んな人、お店、会社などの間を流れています。そんなお金の流れを研究するのが経済学です。

 経済学を勉強し、お金の流れがわかってくると、自分のところにお金をたくさん流れ込ませ、あまり出ていかないようにすることができます。つまり、お金持ちになることができます。ということは、経済学=お金持ちになるための学問ということも言えます。

 そんな経済学の勉強が大好きだと言うと、「お前は金の亡者か!」「なんていやらしい!」なんてよく思われます。実は、これが日本で経済学が流行らない一番の理由なのです。日本人にとって、経済学=お金の勉強をすることはいやらしいことであり、あまり積極的に勉強しようとしてくれません。その結果、数あるノーベル賞の中で、日本人は唯一ノーベル経済学賞だけ受賞していません。

 そんな経済学のマイナスイメージを変えるのが、我々経済学者の仕事です。なので、みなさんに質問します。世の中をお金が流れているとして、お金の流れを生み出しているエネルギーは何だと思いますか? それはずばり「思いやり」です。思いやりの心が世の中のお金の流れを生み出しているのです。

 意味が分からない人が多いと思うので、例を出します。私の教え子に、難関国立大学に進学できる学力があるのに、親の反対を押し切って、パティシエになった子がいました。三者懇談の時の彼女の言葉を今も覚えています。「先生、私、お菓子を作って、誰かに食べてもらって、おいしい! って言ってもらったら、鳥肌がたつぐらいうれしいんですよね。」彼女は今、一流のパティシエになって活躍しています。私は、これはとても幸せなことだと思っています。

 いい仕事とは、「自分の努力により、誰かを幸せにし、その結果お金がもらえちゃう」仕事だと思います。彼女は「お菓子を食べる人を幸せにしたい」という気持ちをもちながらおいしいケーキを作り、お客さんにおいしいケーキを食べてもらって幸せにし、その結果、ケーキの代金を受け取ることができています。この時に受け取ったお金がいやらしいお金でしょうか?

 「思いやり」とは「相手の立場に立って考えること」です。お客さんのことを考え、困っている人のことを考え、一緒に働く社員のことを考え、彼らを幸せにすることによって得たお金は、決していやらしいものではなく、むしろ、そんな思いやりの心によって、お金が動いている世界というのを、私は正常な経済の世界であると考えます。

 ですので、みなさんも、誰かを幸せにするためには、どんな勉強をし、技術を身に着け、経験をしたらいいのかを考えながら、ぜひ経済学を勉強してみてください。そして、経済分野の勉強が終わるころには、私のように経済学が大好きになり、誰かを幸せにできる人材に育っていることを望みます。