16時間目:国民所得の計算

1.フローとストック
 前回の「15時間目:需要供給曲線」に引き続き、数学的な単元についての話題です。今回もいくつかの計算問題がありますが、じっくり説明していくことにより、しっかり理解してもらおうと思います。

 まずは今回のテーマである国民所得とは何なのかを押さえておきます。例えば、飛垣内徹とレオナルド・ディカプリオという2人の人物について、どちらが金持ちかを比較するとき、何を規準に比較すればいいかわかりますか? 金持ちの基準というのは2つあります。一つ目は「どれだけのお金を稼いでいるか」という基準で、2つ目は「どれだけ価値のあるものを持っているか」という基準です。
 例えばディカプリオが1年間に10億円稼いだのに対して、飛垣内が1年間に20億円稼いでいたら、「どれだけのお金を稼いでいるか」という基準では飛垣内のほうが金持ちということです。さらに、ディカプリオが5億円の豪邸に住み、5000万円のフェラーリに乗り、ゴッホやルノワールの絵画を持つなど総額50億円の資産を持つのに対し、飛垣内は10億円の城に住み、2億円の自家用ジェット機で移動し、庭に個人用ディズニーランドを持つなど総額400億円の資産を持っているのなら、「どれだけ価値のあるものを持っているか」という基準でも飛垣内のほうが金持ちということになります。
 このような金持ち度を比較するときの「どれだけのお金を稼いでいるか」の基準のことをフロー「どれだけ価値のあるものを持っているか」の基準のことをストックといいます。給料をたくさんもらってフローの数値が高くても無駄遣いばかりしていてはストックは増えないし、親から豪邸を引き継いでストックはたくさん持っていても、フローもないと生活費が確保できません。そういった意味で、金持ち度を比較するときはフローとストック両方の指標で比べることが必要なのです。 

 まずはレオナルド・ディカプリオと飛垣内徹という個人のフローとストックを比較しましたが、フローとストックを使って、2つ以上の国の金持ち度を比較することもできるし、今年の日本と昨年の日本といった、その年ごとの国の金持ち度の変化を比較することもできます。国のフローのことを国民所得国のストックのことを国富といいます。この2つをまとめると以下のようになります。

国民所得(一国のフロー)・・・一定期間に生み出された付加価値(財・サービス)の合計金額。
  例:GNP,GDP,GNE,GNI,NNP,NI
国富(一国のストック)・・・1つの国がある時点でもつ財産を金額にして表したもの。
  ※国富=実物有形資産(住宅、土地、機械、社会資本など)+対外純資産(対外資産-対外負債)

 ストックはその人の財産のことを指すので、日本人が銀行に預けた預金も日本の国富に計算されそうな気がするのですが、私たちが銀行に預けたお金は、銀行が誰かに貸し出しています。つまり、国内の銀行への預金など(金融資産)は、日本全体にとっては財産であると同時に日本人の誰かの借金に当たるため、国富には計算されません。それに対し、日本人が外国の銀行に預けたお金(対外資産)は、基本的に外国人に貸し出されるので、日本人の財産となり国富に計算されます
 このような発想から、外国に預け・貸し出したお金(対外資産)-外国から借りたお金(対外負債)=対外純資産といい、国内金融資産と違って、対外純資産は国富に計算します。

 フローとストックの指標の違いとして、フロー(国民所得)は、例えば2020年1月1日~2020年12月31日までといった、1年間といった一定期間のデータを集計するのに対して、ストック(国富)というのは2020年9月30日といった、ある時点でどれだけの資産を持っているかを集計します。

 このように、国の金持ち度を表すには国民所得国富が使われますが、この中でもとくによく使われるのが国民所得、つまりフローの指標です。

2.国民所得
 ただ、この国民所得ですが、実にたくさんの種類と計算式があります。さらに、似たような名前も多いので混乱してしまうのですが、それぞれの違いを説明していくので、一つずつ確実に理解していってください。


 ではこれらの種類と計算方式について、下の例題を使って説明します。


 上図の国には、小麦農家、小麦粉工場、パン工場、コンビニの4つの職業しかなく、全ての国民はこの4つの職業のどれかに就職すると仮定する。また、小麦粉工場の中間生産物は小麦代、パン工場の中間生産物は小麦粉代、コンビニの中間生産物はパン代のみであり、小麦農家の中間線産物は0円であると仮定する。
 小麦農家は10万円の小麦を生産し、全てを小麦粉工場に売却する。小麦粉工場は小麦農家から買い取った小麦を加工することにより18万円の小麦粉を生産し、全てをパン工場に売却する。パン工場は小麦粉工場から買い取った小麦粉を加工することにより25万円のパンを生産し、全てをコンビニに売却する。コンビニは25万円で買い取ったパンを31万円の価格を設定し一般客にすべて売却することができたとする。

①総生産額(最終生産物)
 では、この国の総生産額を計算してみましょう。総生産額はこの表の中で各企業が受け取った金額を単純にとにかく足し算したものです。つまり、小麦農家は小麦の代金として10万円を受け取りました。小麦粉工場は小麦粉の代金として18万円を受け取りました。パン工場はパンの代金として25万円を受け取りました。コンビニはパンの代金として31万円を受け取りました。これらを単純に足し算した結果、総生産額10万円+18万円+25万円+31万円=84万円ということになります。

②GNP(国民総生産)=総生産額ー中間生産物
 しかし、総生産額はうさんくさい指標であることに気づいてもらえるでしょうか? 例えば、コンビニの総生産額は31万円ですが、決して31万円の利益を得たわけではありません。確かに客からは31万円を受け取っていますが、パン工場にパン代として25万円を支払っています。だから、コンビニの利益は31万円-25万円=6万円となるはずです。

 なので、そんな総生産額の欠点を補ったのが国民総生産(GNP)です。GNPは総生産額から商品の生産にかかった原材料費・燃料費など中間生産物を差し引くことにより求める指標です。さっきの表を例にすると、小麦粉工場はパン工場から18万円を受け取っていますが、原材料費(中間生産物)として農家に10万円を支払っています。さらにパン工場もコンビニから25万円受け取っていますが原材料費として小麦粉工場に18万円を支払っています。さらにコンビニも客から31万円を受け取っていますが、パン工場に原材料費として25万円を支払っています。つまりそれぞれが受け取ったお金から原材料費(中間生産物)として支払ったお金を差し引かないとそれぞれが得た純粋な利益は求められないので総生産額-中間生産物の計算で求めるのが国民総生産(GNP)となるわけです。そうなると、例題ではGNP総生産額84万円-中間生産物53万円(10万円+18万円+25万円)=31万円ということになります。

③NNP(国民純生産)=GNP-固定資本減耗
 GNPは総生産額と比べるとかなり、その国の国民の金持ち度を示すのに説得力のある指標となるわけですが、そんなGNPよりも、さらに純粋な国民の利益を求めようとするのが国民純生産(NNP)という指標です。NNPはさっき求めたGNPから固定資本減耗(減価償却費)を差し引くことによって求めることができます。

 固定資本減耗というのも難しい言葉です。例えばパン工場が100万円の機械を使ってパンを作っていたとします。しかし、生産用機械というのはいつかは壊れて使えなくなってしまいます。もし、生産用機械が壊れてしまったら、再びこの100万円の生産用機械を買い換える必要がありますが、この機械が壊れた後に買い替えのお金を用意していたのでは、機械が壊れた年だけ100万円も余計な出費が増えてしまい、この年だけパン工場にとって経営の苦しい年となってしまいます。なので、機械が壊れることによりある年だけ会社が苦しくなるのを防ぐため、賢い会社は固定資本減耗という積立貯金をします。例えば会社が100万円の生産用機械を買い、この機械の耐用年数(寿命)が10年だとすると、1年間に(100万円÷10年=)10万円ずつを積立貯金していきます。そうすると、10年後にこの機械が壊れたとしても、毎年こつこつと積み立てて貯まった100万円を使って新しい機械を買えばすむことなので、買い替えの年だけ会社の経営が苦しくなるのを防ぐことができます。言い換えれば、この固定資本減耗は各企業の利益から毎年差し引かれるのですが、商品を生産するためには必要な経費ということになります。というわけで、GNP―固定資本減耗の計算により、さらに純粋な国民の利益であるNNPを求めることができるのです。

④NI(国民所得)=NNP-間接税+補助金
 さらに、純粋に国民が使えるお金を計算するのがNI(国民所得)です。

 ややこしいのが、今、国民所得の種類について説明しているところなんですが、数ある国民所得の種類の中に国民所得(NI)という指標があります。つまり、広い意味では国民所得はその国のフローを示す指標全てのことを言うのですが、狭い意味では国民所得(NI)の事を指します。せめて別の名前にしてもらえば、教える側としても助かるのですが、残念ながらこういうわかりにくいことになっています。理解してもらえましたでしょうか?

 狭い意味での国民所得(NI)は、さっきのNNPから間接税を差し引き補助金をプラスすることによって求められます。つまりお店屋さんが客から代金を受け取るとき、消費税などの間接税も同時に受け取りますが、間接税はお店屋さんの収入にならず、その後、国にぶん取られてしまうお金ので、国民の使えるお金から差し引いてしまおうというわけです。それとは逆に、国から国民にお金が支給されることがあります。それは特定の産業を育成するためであったり、貧しい人に配られるお金であったり理由は様々ですが、このように国から国民に配られるお金のことを補助金といいます。そして補助金は国民が稼いだお金ではありませんが、国民たちの買い物には使われるため、国民所得の計算にはプラスします。このようにNNP-間接税+補助金で算出されるのが国民所得(NI)なのです。

⑤GDP(国内総生産)=GNP-海外からの純所得
 日本政府が毎年データを取ることにより、GNP、NNP、NIなどの指標が毎年発表されています。その中でも昔はGNPが日本の経済規模を表す指標として注目されてきましたが、最近はGNPの変わりにGDP(国内総生産)のほうがよく使われるようになってます。よって、若い人はGDPのほうが聞いたことのある指標であるのに対し、おっさんになればなるほどGNPのほうが馴染みのある状態になっています。では、このGDPとはいったい何なのでしょうか? GNPとGDPの違いをまとめるとこうなります。

 ・ 日本のGNP(国民総生産)・・・日本国民が稼いだお金の合計金額
 ・ 日本のGDP(国内総生産)・・・日本国内で稼いだお金の合計金額

 アメリカの大リーグでプレーする大谷翔平が稼いだお金は日本のGNP(国民総生産)には含まれますが、GDP(国内総生産)には含まれません。それに対してアメリカ人のラミレス監督がDeNAベイスターズから受け取った給料は、日本のGDP(国内総生産)には含まれます。つまり、日本国民が稼いだお金か、日本国内で稼いだお金かがGNP(国民総生産)とGDP(国内総生産)の違いとなるわけです。

 そして、昔はGNP(国民総生産)が経済指標としてはよく使われていたのですが、遠く離れた外国で生活する日本人の稼いだお金よりも、日本国内で生活する人たちの稼いだお金を計算するほうが、日本の現在の経済状態がわかりやすいという理由から、最近はGDPがよく使われるようになりました。ただ、日本という国は、外国で生活する人も、外国から日本にやってきた人もそんなに多くはないので、GNPもGDPもそんなに数字的には違いはありません。

 GDPGNP-海外からの純所得(国外に住む国民の所得―国内に住む外国人の所得)により求められます。

●問題演習
 では以上のことを踏まえて、例題を解いてみましょう。


 計算間違いした人は、もう一度、上の国民所得一覧表の計算式を見て確認してください。

 このように、国民所得を計算することにより、各国の金持ち度を比較することができます。では、国民所得の指標の一つ、GDPを使って比較してみましょう。

順位 国名 GDP(2017年)
アメリカ 2178兆円
中国 1363兆円
日本 552兆円
4 ドイツ 409兆円
5 イギリス 303兆円
6 フランス 290兆円
7 インド 271兆円
8 イタリア 214兆円
9 ブラジル 204兆円
10 カナダ 178兆円

 データを見る限り、世界で一番金持ちの国がアメリカ、2位が中国で、日本は3番目ということになりますが、本当にそう言い切っていいのでしょうか? 実は、国民所得というのは、一年間にその国が稼いだお金の合計のようなものなので、人口が多ければ多いほど、稼いでくれる人が多くなるわけで、その結果、中国、インド、ブラジルなどの人口の多い国が上位にランクされる特徴があります。つまり収入が少ない人が多かったとしても、人口が多くなれば、国民所得は高くなっていくというわけです。
 そんな国民所得を人口で割り算することにより、一人当たりの国民所得を計算することができます。ランキングを出すとこんな感じです。

  国名 1人当たりGDP(2017年)
モナコ 1875万円
リヒテンシュタイン 1794万円
スイス 917万円
4 ノルウェー 861万円
5 ルクセンブルク 800万円
27 日本 435万円
72 中国 109万円

 一人当たりGDPということは、その国に暮らす人たちの平均年収と考えてもらっていいでしょう。ただ、国全体で稼いだお金を人口で割っているということは、人口の中には働いていない子どもたちやお年寄りも含まれていますので、実際に働いている人たちが受け取っている平均年収と同じわけではありません。
 これを見ると、GDPが世界第2位の中国も国民一人一人の生活レベルはまだまだ低いことがわかります。また、平均年収が1875万円もあるモナコがうらやましい人もいるかもしれませんが、平均年収が高く、セレブが多い国はそれだけ物価も高いことも知っておいてください。

3.国民所得の三面等価の原則
 そんな国民所得の特徴である三面等価の原則について説明します。例えば、GNPは「1年間に国民がどれだけのお金を稼いだか」という指標であると表現しましたが、これは言い換えると「1年間に国民がどれだけの商品(財・サービス)を作りだしたか(生産)」と同じ意味になります。さらに国民は商品を作って売っただけ代金を受け取るので「1年間に国民がどれだけのお金を受け取ったか(分配)」した金額も同じ金額になります。さらに国民は受け取った金額だけ買い物することができるため、「1年間に国民がどれだけのお金を使ったか(支出)」も同じ金額になります。

 つまり、10万円で売ることのできるほうれん草を作った(生産)農家は、ほうれん草を売って10万円を受け取り(分配)、10万円を自由に使う(支出)ことができます。意味がわかりますか? 実はすごく当たり前のことを言っているだけなので、深く考えすぎないことをお勧めします。まとめると、国民所得は生産(いくら作ったか)、分配(いくら受け取ったか)、支出(いくら使ったか)の3つの面から見ることができるのですが、この3つの数字は当然同じ金額になります。このことを国民所得の三面等価の原則といいます。

 例えば、GNP(国民総生産)は、「生産」というだけあって国民の利益を生産(いくら作ったか)という視点で表したものですが、分配(いくら受け取ったか)という視点で表すとGNI(国民総所得)支出(いくら使ったか)という視点で表すとGNE(国民総支出)ということになります。そして、これら3つの指標は三面等価の原則によりGNP=GNI=GNE全て金額は同じになります。国民総生産、国民総分配、国民総支出なんて似たような言葉を並べられると、何が違うのか混乱しそうなのですが、数値自体は同じ数字になので、そこまで混乱する必要はないような気がします。例えばこんな問題が出てきます。

●例題
 次の数字を使って、NNP(国民純生産)を求めよ。

  GNE(国民総支出)=300 間接税=10 固定資本減耗=50 補助金=5

 NNP(国民純生産)はGNP(国民総生産)-固定資本減耗の計算で求めることができると習いました。しかし、困ったことに例題の中にはGNP(国民総生産)がありません。パニックです。しかし、ここで三面等価の原則を知っていれば、GNP(国民総生産)とGNE(国民総支出)は同じ数字であることがわかります。だからGNPの代わりにGNEを使い、GNE(国民総支出)-固定資本減耗でNNP(国民純生産)を求めることができます。だから正解は300-50=250です。

4.国民所得の欠点
 国民所得を使えば、それぞれの国の経済規模を比較することができ、GDPを見る限り、日本は世界で3番目に金持ちであり、一人当たりGDPでも27番目に金持ちであるといえますことがわかりました。しかし、国民所得の数字さえ高ければ、それだけでその国が豊かであると言い切れるのでしょうか?

 例えば、バリバリに働いて、月収を100万円もらっていても、忙しすぎて家事をする時間がなくて月20万円で家政婦を雇わないといけなくなったり、通勤時間を節約するために家賃50万円の高級マンションに住んではいるけれど、残業だらけでマンションにはほぼ寝るためだけに帰り、ストレスのため内臓がボロボロで医療費に月20万円かかっている日本人がいるとしましょう。
 逆に南太平洋の島国ツバルで、月収が0円なのに、魚を釣り、木の実を採って自給自足ができ、村人たちがボランティアで助け合い、のんびりとストレスもなく生活しているツバル人がいるとしたら、みなさんはどちらの生活のほうが豊かだと思いますか?

 つまり、「国民所得が高い=お金をたくさん持っている」からと言って、その国の人たちが豊かであるとは限りません
 また、国民所得は「その国の人たちが働いて新たに生み出した金額の合計」を示しているので、次のような項目も計算されません。

   ボランティア活動、無償の家事労働 = 給料をもらったわけではないので金額にできない
   株の売買益、中古品の販売利益 = 働いて新たに生み出した金額ではないから

 そんな国民所得の欠点を補うために、NNW(国民純福祉)という指標が発明されました。これはGNPに「主婦の家事労働」「ボランティア活動」を金額にしてプラスし、「公害被害」などをマイナスすることによって、国民の豊かさを金額にして示そうとしたものです。しかし、これらの指標というのは金額に表すこと自体、強引な話なので、うさん臭い数値しか出てこず、あまり普及していません。その他に、国民の豊かさを示そうとした指標に、GDPから環境被害をマイナスして環境被害を考慮した豊かさを求めるグリーンGDPや、各国の平均寿命、教育、所得などを指数化した数値を国連機関が集計しているHDI(人間開発指数)などがあります。

5.経済成長率の計算
①名目経済成長率
 今までは、GDPを使って日本と外国の金持ち度を比較しましたが、今度は今年の日本と昨年の日本の金持ち度を比較しましょう。そんな時に便利なのが(名目)経済成長率です。経済成長率はこのように計算します。


 例えば、今年の日本のGDPが550兆円、昨年の日本のGDPが500兆円だとすると、以下の計算のようになります。


 これは言い換えれば、この1年間で日本は550-500=50で50兆円分金持ちになり、この増えた50兆円というのは昨年のGDPの500兆円の10%分に当たり、昨年に比べて10%金持ちになったと言うことができます。

②実質経済成長率
 しかし、もし日本のGDPが高くなっても、それ以上に日本の物価が高くなってしまえば、本当に金持ちになったとはいえません。例えば私の年収が300万円から600万円と2倍になったとしても、物価が10倍になり、例えば缶ジュース1本が130円から1300円になるなど世の中の物価が10倍になってしまうと、収入が2倍でも、支出が10倍になってしまうので、逆に生活が苦しくなってしまいます。

 そんな物価の変動も考慮に入れた経済成長率が実質経済成長率といいます。それに対して物価を考慮に入れず、そのまま計算した先ほどの経済成長率のことを名目経済成長率といいます。実質経済成長率の計算方法は以下のようになります。



 例えばさっきの、今年のGDPが550兆円、昨年が500兆円という例題では名目経済成長率は10%でしたが、もし、昨年の物価指数100とし、今年の物価上昇率を110であったとするならば、実質経済成長率は次のようになります。


 つまり、GDPは10%高くなったけど、物価も10%高くなったので、実質的には経済成長率はゼロということです。ということは、昨年と比べてこの国は金持ちにも貧乏にもなっていない。変わっていないということです。

6.景気変動
 計算した経済成長率をグラフに書くことにより、その国の好景気や不景気の時期を確認することができます。大まかに書くと次のようになります。


 このような経済成長の波のことを景気変動といいますが、何人かの経済学者はこのような景気の波がどれぐらいの周期ごとにやってくるのかを研究しました。代表的な経済学者はコンドラチェフ、ジュクラ-、キチン、クズネッツの4人です。彼らの研究の成果を以下にまとめます。

  周期 原因
コンドラチェフの波 長期波動
約50年周期
技術革新の開発
・50年ごとに新技術が開発され、景気に影響を与える。
クズネッツの波 約15年周期 建設投資
・15年ごとに建物が建て替えられ、景気に影響を与える。
ジュグラーの波 中期波動
約10年周期
設備投資
・10年ごとに企業が設備投資を行い、景気に影響を与える。
キチンの波 短期波動
約40ヶ月
在庫投資
・40ヶ月ごとに在庫の量が増減を繰り返し、景気に影響を与える。


 コンドラチェフに関連して、経済学者シュンペーター技術革新(イノベーション)によって景気の波が生じると主張しました。ここでいう技術革新とは新しい技術や生産方式が開発されることだけでなく、生産組織の改善や販路の拡大なども技術革新に含まれます。シュンペーターは経済が発展するためにはこのような創造的破壊が必要であると考えました。

7.物価の変動
 景気が良くなったり、悪くなったりすることにより、物価も上がったり、下がったりします。物価が変動する要因は、景気だけではありません。そのことも踏まえて、物価高(インフレーション)、物価安(デフレーション)の基本的な特徴と、インフレーションの種類、デフレーションの種類をまとめて、今回の授業は終了です。

  家計のデメリット 企業のデメリット
デフレーション(物価安) 給料が少なくなる 売り上げが少なくなる
インフレーション(物価高) 買い物が高くつく 原材料費が高くつく

 

★インフレーションの種類

コストプッシュ・インフレ 生産費用が高くなることにより起こるインフレ
ディマンドプル・インフレ 通貨が増えること(好景気)により起こるインフレ
クリーピング・インフレ 年2~3%ぐらいのインフレ
ギャロッピング・インフレ 年10%以上のインフレ
ハイパー・インフレ 年100%以上のインフレ

★デフレーションの種類

デフレスパイラル 物価の下落⇒利益の減少⇒給与の減額⇒消費の落ち込み⇒さらなる物価の下落により、デフレが際限なく進んでしまう状態

 

2020年9月18日一部修正